これから木造で家を建てようと計画を進める中で、「この土地は準防火地域なので、準耐火構造にする必要があります」といった言葉を耳にしたことはありませんか?
「準耐火って何?」「普通の木造と何が違うの?」「費用はすごく上がるの?」など、聞き慣れない言葉に不安を感じている方も多いかもしれません。
この記事では、家づくりを始めたばかりの初心者の方にも分かりやすく、以下の点を徹底解説します。
- 木造の準耐火構造の基本的な意味と目的
- よく似た「耐火構造」「防火構造」との明確な違い
- 準耐火構造が法律で必要になる具体的なケース
- 追加でかかる費用相場と、知っておくべきデメリット
この記事を読めば、木造の準耐火構造に関する疑問や不安が解消され、安心して家づくりを進めるための知識が身につきます。
木造の準耐火構造とは「火災の延焼を抑制」するための構造
木造の準耐火構造とは、簡単に言うと、火災が発生した際に、一定の時間、建物の倒壊や周囲への燃え広がりを防ぐ性能を持つ構造のことです。
一般的な木造住宅よりも燃えにくい部材や工法を用いることで、万が一の火災時にも被害を最小限に食い止めることを目的としています。
目的は「避難時間の確保」と「近隣への延焼防止」
準耐火構造の主な目的は、万が一火災が発生した際に、①室内の人が安全に避難できる時間を確保すること、そして②火が建物の外に燃え広がり、近隣の住宅に延焼するのを抑制することの2点です。
建築基準法では、火災が鎮火するまで倒壊しない性能が求められる「耐火構造」に対し、準耐火構造は「通常の火災による延焼を抑制するために必要な性能」と定義されています。
具体的には、壁や床などが火災の熱に45分間や60分間耐えることで、その間に避難を完了させ、消防隊の消火活動が間に合うようにするという考え方に基づいています。
特に住宅が密集する都市部では、自分の家を守るだけでなく、地域全体の安全を守る上で非常に重要な役割を果たします。
「木は燃えやすい」は誤解?木材が火に強い理由
「木造住宅は火事に弱い」というイメージがありますが、実は木材はある程度の太さや厚みがあると、鉄よりも火に強い側面を持っています。
木材は燃えると表面に「炭化層」を作ります。
この炭化層が断熱材のような役割を果たし、内部へ酸素が供給されるのを防ぐため、火が中心部まで燃え進むのに時間がかかります。
木材の燃焼速度は1分間に約0.6mm〜0.8mmと比較的遅く、構造がすぐに強度を失うことはありません。
一方、鉄骨は550℃程度の熱で急激に柔らかくなり、一気に曲がって建物の崩壊につながる危険性があります。
木は表面が燃えても、内部の構造を維持しようとする性質があるため、避難時間を確保するという点で非常に優れた素材なのです。
耐火構造・防火構造との違いを一覧比較
家づくりの際に登場する火災関連の用語には、「耐火構造」「準耐火構造」「防火構造」といった似た言葉が多く、違いが分かりにくいですよね。
ここでは、それぞれの目的と性能の違いを分かりやすく解説します。
比較項目 | 耐火構造 | 準耐火構造 | 防火構造 |
主な目的 | 建物の倒壊を防ぎ、火災が鎮火するまで耐える | 延焼を抑制し、避難時間を確保する | もらい火による延焼を防ぐ |
性能レベル | 最も高い | 中程度 | 限定的 |
対象部位 | 主要構造部(壁、柱、床など)全体 | 主要構造部(壁、柱、床など)全体 | 外壁、軒裏など |
コスト | 高い | 中程度 | 比較的安い |
耐火構造との違いは「建物の倒壊を防ぐ性能」
耐火構造と準耐火構造の最も大きな違いは、火災が収まるまで建物が倒壊しない性能が求められるかどうかです。
耐火構造は、火災が起きても建物の主要構造部が倒壊せず、大規模な修繕をすれば再利用できるほどの性能を目指します。
主に鉄筋コンクリート造のマンションや、大規模な商業施設、防火地域に建つ一定規模以上の建物で義務付けられる、最も厳しい基準です。
一方、準耐火構造は、火災後に再利用することまでは想定しておらず、あくまで「定められた時間、倒壊や延焼を防ぐ」ことを目的としています。
そのため、耐火構造に比べてコストを抑えながら、木造住宅でも安全性を確保できる現実的な選択肢となっています。
防火構造との違いは「求められる性能と対象部位」
防火構造は、準耐火構造よりもさらに限定的な性能を指します。
防火構造の主な目的は、隣家からの「もらい火」に耐えることです。
そのため、性能が求められるのは建物の内部ではなく、外壁や軒裏といった外回りの部分に限られます。
例えば、外壁にモルタルを塗ったり、防火性能のあるサイディング材を使ったりすることで基準を満たします。
これに対して準耐火構造は、もらい火だけでなく、室内で発生した火災が建物全体に燃え広がったり、外部に燃え移ったりするのを防ぐ必要があり、壁・床・柱といった建物内部の構造部全体で性能が求められます。
つまり、防火構造は「外からの火を防ぐ」、準耐火構造は「内と外、両方の火の広がりを抑える」という違いがあります。
あなたの家は必要?木造で準耐火構造が必須になる地域と建物
準耐火構造は、どこに家を建てるか、どんな規模の家を建てるかによって、建築基準法で義務付けられます。
自分の計画する家が該当するかどうか、しっかり確認しましょう。
特に多いケースは「準防火地域内の木造3階建て」
木造住宅で準耐火構造が求められる最も代表的なケースが、「準防火地域」に「木造3階建て」を建てる場合です。
都市部の住宅地は準防火地域に指定されていることが多く、狭小地などで3階建てを検討する場合、この条件に当てはまる可能性が非常に高くなります。
この場合、建物を準耐火構造(またはそれ以上の耐火構造)にすることが法律で義務付けられています。
防火地域・準防火地域ごとの建築制限まとめ
お住まいの地域が「防火地域」か「準防火地域」かによって、求められる建物の性能は変わります。
一般的な木造住宅に関わる主な制限は以下の通りです。
※上記は一般的な基準です。
詳細はお住まいの自治体の条例や建築指導課にご確認ください。
木造準耐火構造の2つの仕様「イ準耐」と「ロ準耐」
木造の準耐火構造には、求められる性能に応じていくつかの種類があります。
その中心となるのが「イ準耐(いじゅんたい)」と呼ばれる仕様です。
これは、建物の骨格となる柱・梁・床・屋根といった「主要構造部」に求められる性能規定で、火災発生時に建物がすぐに倒壊しないようにするための重要な仕様です。
イ準耐には「イ準耐-45分」と「イ準耐-60分」の2種類が存在します。
この「45分」や「60分」という時間は、火災の熱にどれだけの時間耐えられるかを示しており、60分準耐火構造(1時間準耐火構造とも呼ばれます)の方がより高い性能を持ちます。
例えば、準防火地域で木造3階建てを建てる場合など、建築基準法で定められた条件に応じて、どちらの仕様を適用するかが決まります。
これらの仕様を満たすためには、石膏ボードを二重に貼るなど、定められた部材と工法で壁や床を構成する必要があります。
外壁や軒裏が対象の「ロ準耐-45分」と「ロ準耐-60分」
もう一つの重要な仕様が「ロ準耐(ろじゅんたい)」です。
こちらは、隣家など外部で発生した火災から自宅を守ること、つまり「延焼のおそれのある部分」を対象とした性能規定です。
具体的には、外壁や軒裏(のきうら)などが該当します。
ロ準耐もイ準耐と同様に、火災に耐えられる時間によって「ロ準耐-45分」と「ロ準耐-60分」に分かれています。
例えば、外壁に防火サイディングを使用したり、軒裏に不燃材や準不燃材を使用したりすることで、この基準をクリアします。
都市部の住宅が密集している地域では、このロ準耐の性能が、もらい火による火災を防ぐために非常に重要となります。
建築する場所の防火地域・準防火地域の指定や、隣地との距離によって、求められる性能が細かく定められています。
自分の家だけでなく、地域全体の安全を守るための大切な規定といえるでしょう。
壁・床・天井の具体的な構造仕様の例
では、準耐火構造を実現するためには、具体的にどのような壁や床を造るのでしょうか。
例えば45分準耐火構造の壁を木造で造る場合、一般的な工法として「強化せっこうボード21mm厚張り」といった仕様があります。
これは、柱や梁といった構造材の両側に、厚さ21mmの燃えにくい石膏ボードを隙間なく張ることで耐火性能を確保する方法です。
床や天井も同様に、構造材の下に石膏ボードを二重張りしたり、断熱材としてロックウールを充填したりすることで、下の階から上の階へ火が燃え移るのを防ぎます。
これらの仕様は、国土交通大臣が認定した仕様や、住宅金融支援機構が定める「省令準耐火構造」の仕様(参考:【フラット35】技術基準 戸建住宅)などを参考に設計されます。
見た目は普通の壁や天井と変わりませんが、内部の構造を工夫することで、万が一の火災時に家族の命を守るための大切な時間を稼ぎ出すことができるのです。
準耐火構造の費用相場と知っておきたいデメリット
安全性を高めるために重要な準耐火構造ですが、費用面や設計面での注意点も理解しておく必要があります。
坪単価2〜5万円、総額100〜300万円のコスト増が目安
準耐火構造を採用する場合、一般的な木造住宅に比べてコストアップは避けられません。
具体的な金額は建物の規模や仕様によって変動しますが、坪単価あたり約2万円〜5万円程度の追加費用がひとつの目安となります。
例えば、延床面積が30坪の住宅であれば、総額で100万円〜300万円程度のコスト増を見込んでおくとよいでしょう。
この費用の内訳は、耐火性能の高い石膏ボードや断熱材、防火仕様のサッシやドアといった建材費の増加分と、それらを施工するための手間賃(人件費)です。
初期費用はかかりますが、後述の通り火災保険料が大幅に安くなるメリットがあるため、長期的な視点でコストを考えることが重要です。
デメリット1. 窓のサイズやデザインなど間取りの制約
準耐火構造では、壁や床だけでなく、窓やドアといった開口部にも防火性能が求められます。
そのため、使用できるサッシの種類が「防火設備」として認定された製品に限られます。
これにより、デザインの選択肢が狭まったり、大開口の窓や特殊な形状の窓を設置することが難しくなったりする場合があります。
特に、開放的なリビングを実現するための大きな吹き抜けや、壁一面のパノラマウィンドウといった設計は、準耐火構造の基準を満たしながら実現するのが技術的に難しく、コストも大幅に上がる可能性があります。
理想の間取りがある場合は、設計の早い段階で建築士やハウスメーカーの担当者に相談し、準耐火構造の制約の中でどこまで実現可能かを確認することが不可欠です。
デメリット2. 将来的なリフォームの難易度
準耐火構造の住宅は、壁や床、天井の内部が法令で定められた仕様で厳密に造られています。
そのため、将来的に間取りの変更を伴うような大規模なリフォームやリノベーションを行う際に制約が生じることがあります。
例えば、「壁を壊して2つの部屋を1つにしたい」と考えても、その壁が建物の防火区画を形成する重要な壁である場合、簡単には撤去できません。
もし撤去する場合は、同等の防火性能を持つ別の壁や防火戸を設置する必要があり、追加で多額の費用がかかる可能性があります。
また、コンセントの増設や配線の変更といった軽微な工事であっても、壁の内部構造に影響を与える場合は、専門的な知識を持つ業者に慎重に施工してもらう必要があります。
木造の準耐火構造に関するよくある質問
最後に、木造の準耐火構造について施主様からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 火災保険料は安くなりますか?
はい、火災保険料は安くなる可能性が非常に高いです。
火災保険の保険料は、建物の構造によって「M構造(マンション構造)」「T構造(耐火構造)」「H構造(非耐火構造)」の3つの区分で算出されます。
木造住宅の場合、通常は最も保険料が高い「H構造」に分類されます。
しかし、準耐火構造や省令準耐火構造の基準を満たした木造住宅は、「T構造」として扱われます。
T構造はH構造に比べて火災リスクが低いと評価されるため、保険料が大幅に割り引かれます。
割引率は保険会社やプランによって異なりますが、一般的な木造住宅(H構造)と比較して保険料が半分近くになるケースも珍しくありません。
建築コストは上がりますが、火災保険料というランニングコストを長期的に見れば、大きなメリットと感じられるでしょう。
Q2. 固定資産税に影響はありますか
固定資産税は、建物の構造や使用されている資材によって評価額が変わるため、影響が出る可能性があります。
固定資産税の評価は、再建築費評点数という基準で算出されますが、準耐火構造にするためには石膏ボードを厚くしたり、防火性能のあるサッシを使用したりするため、一般的な木造住宅よりも資材や手間がかかります。
そのため、評価額が上がり、結果的に固定資産税が少し高くなる傾向があります。
ただし、その上がり幅は建物の規模や仕様によって大きく異なり、一概に「いくら上がる」と断定はできません。
火災保険料の割引分と相殺して考えるなど、トータルコストで判断することが大切です。
心配な場合は、設計段階でハウスメーカーや工務店の担当者に、固定資産税の概算について確認してみることをおすすめします。
Q3. 耐火性を高めるおすすめの工法はありますか?
はい、工法によって耐火性を高めることも可能です。
代表的なのが「ツーバイフォー工法(枠組壁工法)」です。
ツーバイフォー工法は、柱や梁で支えるのではなく、構造用合板を張ったパネルで床・壁・天井の6面体を構成して建物を支えます。
この構造が火の回りを遅らせる「ファイヤーストップ効果」を生み出し、火災が発生しても燃え広がるのを抑制します。
各部屋が箱のように区切られているため、火を一部屋に閉じ込める効果も期待できます。
準耐火構造の仕様とツーバイフォー工法を組み合わせることで、さらに安心・安全な住まいを実現することができるでしょう。
準耐火構造を理解し、安全な住宅づくりを目指そう!
今回は、木造住宅の「準耐火構造」について解説しました。 最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
- 準耐火構造は、火災時の延焼を抑制し、避難時間を確保するための構造。
- 「耐火構造」ほどの性能はないが、「防火構造」よりはるかに高い性能を持つ。
- 準防火地域の木造3階建てなどで法律上の義務となるケースが多い。
- 坪単価2〜5万円程度のコスト増が目安だが、火災保険料が安くなるメリットも。
- 間取りや窓のデザイン、将来のリフォームに制約が出ることがある。
「準耐火構造」と聞くと、難しく感じたり、費用面で身構えてしまったりするかもしれません。
しかし、その本質は、自分と家族の命、そして地域社会の安全を守るための大切な仕組みです。
この記事で得た知識を元に、建築会社の担当者としっかり話し合い、納得のいく安全な家づくりを進めてください。
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